<社説>ノーベル賞続出 功績は計り知れない


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 研究者としての世界最高の栄誉が続出した。画期的だ。相次ぐ朗報を大いに喜びたい。

 ことしのノーベル医学生理学賞に大村智・北里大特別栄誉教授が選ばれ、ノーベル物理学賞には梶田隆章・東京大宇宙線研究所長が輝いた。連日の快挙である。
 会見で大村氏は「微生物の力を借りただけ」と述べた。梶田氏は故人の戸塚洋二・東京大特別栄誉教授がいなければ「この成果はなかった」と語った。謙虚な姿勢が印象的だ。
 梶田氏は、重さがないと考えられていた素粒子「ニュートリノ」に質量があることを見つけた。観測装置スーパーカミオカンデで、「ミュー型」のニュートリノが理論値より少ないことを見つけ、観測できない「タウ型」に変身していると考えた。これは振動と呼ばれる現象の結果で、質量がないとあり得ない現象だ。梶田氏は、地球を貫通して足元から来るものは頭上から降るものの半分しかないことをデータで実証し、振動の証拠を世界に示した。
 大村氏は、寄生虫が引き起こす熱帯感染症に大きな治療効果を挙げた特効薬イベルメクチンを開発した。外出時には常にポリ袋を持ち歩き、各地で土を採取して持ち帰った。顕微鏡で微生物を探し、生産する化学物質を分離・培養する。その中から新種の放線菌を発見、その放線菌がつくる未知の抗生物質が特効薬の源流となった。
 特効薬のおかげでオンコセルカ症(河川盲目症)や象皮症の治療法が確立した。今や絶滅間近だ。世界で年間4万人もの失明発生を防いでいる。功績は計り知れない。
 沖縄に多い糞線虫症もこの特効薬のおかげで抑え込むことができた。沖縄にとっても「恩人」である。深く感謝したい。
 大村氏は「人の2倍3倍失敗している」と語る。梶田氏のデータ収集も膨大な作業の積み重ねだった。地道な作業の繰り返しこそ成果の源であり、近道はないということである。
 これで自然科学系3賞の日本の受賞者は今世紀に入って15人となった。米国に次いで世界2位だ。
 だが研究はいずれも20世紀中の成果だ。近年は論文発表数も、他の論文での引用回数も急減している。国の研究費助成抑制の流れが影響していないか。すぐに成果が出る研究ばかり求める近視眼的な姿勢に陥ってはならない。受賞を機に昨今の潮流を見直したい。