<社説>児童虐待過去最多 安全確保は社会の務め


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 全国の児童相談所が2014年度に対応した児童虐待件数(速報値)は、前年度比20・5%増の8万8931件で過去最多を更新した。沖縄は478件で130件増え、過去最悪となった。

 対応事案の対象幅を広げたことが影響したとはいえ、1990年度に集計を始めてから24年連続で虐待件数が増加し、初めて8万件を突破した。由々しき事態である。
 全国で13年度に虐待を受けて死亡した子どもは36人に上る。12年度の51人より減少したものの、36人の命が奪われたことは痛恨の極みである。
 児童虐待の背景には核家族化や貧困、地域の絆の希薄化などさまざまな要因が指摘されている。だがそれは子どもたちの責任ではない。社会のひずみによって子どもたちを苦しめたり、犠牲にしたりすることをこれ以上、顕在化させてはならない。
 行政、学校、地域ぐるみで児童虐待防止に努めることが何より大切だ。子どもの安全を守ることは社会の務めである。国民一人一人がその強い意志を持つことで児童虐待ゼロに近づく可能性は高まる。
 その面での政府の取り組みは極めて弱いと言わざるを得ない。政府は、児童虐待ゼロに向けた幅広い国民運動を呼び掛けるべきだ。
 安倍晋三首相はアベノミクスに力を入れるが、経済が豊かになれば、子どもを取り巻く環境が全て改善されるというものではない。児童相談所の人員強化に加え、保護施設など受け皿の拡充など取り組むべき課題は多い。子どもの「安全保障」を最重要課題として取り組むべきである。
 虐待から子どもを守るため、親権停止制度が12年4月に創設され、14年度は全国で23件の申し立てがあり、17件で親権停止が認められた。子ども本人も申し立てができるようになったことで、親の暴力からの救済手段として期待されているが、経済的支援といった制度の充実などの課題がある。
 経済的支援がないことで、心に傷を負った子どもを孤立させてはならない。親権停止が認められた子どもがしっかりと自立できるよう、政府は手厚い支援策を講じるべきである。
 子どもたちが夢や目標に向かって歩み、世界に羽ばたく権利を等しく保証する社会でありたい。児童虐待の根絶なしには、全ての子どもたちが輝く未来を描くことはできない。