<社説>ロのシリア空爆 協調するしか道はない


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 混迷に拍車を掛けるだけではないか。状況悪化が危ぶまれる。

 内戦が続くシリアでロシアが空爆を始めた。「イスラム国」などの過激派掃討が目的と説明する。だが米欧が支援する反体制派への攻撃が狙いとの疑念も拭えない。米政府は「イスラム国」非支配地域が空爆先だったと批判し、シリア人権監視団(英国)は「空爆で少なくとも市民39人が死亡した」と非難した。
 いずれにせよ現状は米欧とロシアがシリアで代理戦争をしているようなものだ。自らの国民と国土は安全地帯にあるから、他国民の危険はエスカレートさせて平気なのではないか。各国、とりわけ米ロ両国は一刻も早く、内戦の収拾へ向け大胆な協調に転じるべきだ。
 内戦は、独裁に抗議する市民のデモをアサド政権が武力鎮圧したのがきっかけだ。4年以上に及ぶ内戦で死者は25万人を超えた。400万人超が国外に逃れ、国内避難民も約800万人に上る。
 米欧は反体制派を支援してきたが、ロシアにとっては緊密な関係にあるアサド政権が中東で唯一の橋頭堡(きょうとうほ)で、当然、政権を後押しする。両者が武器を供与するなどし、内戦は泥沼化した。今回の空爆で混迷が深まるのは間違いない。すると難民はさらに増える。誰にとっても悪夢でしかないのだ。
 混迷を収拾するには、宗派・部族間など国民融和の仲介、過激派への人・金・武器の流入を断つ周辺国対策、難民・避難民への人道援助など、包括的な対策が必要だ。それを担えるのは国連しかない。機能不全の安全保障理事会の機能を回復するため、各国は利害を超え、協調するしかないのである。
 今回の事態は、無辜(むこ)の市民の死を招くという意味で、空爆という手法への根源的な疑念も深めた。米欧も「イスラム国」掃討を掲げ、これまでシリアで空爆してきたが、組織弱体化の兆しはなく、有効性への疑念が強かった。一方で、誤爆による市民の被害も多数報告されていた。
 そこへ今回の空爆である。ロシアは事前の偵察とシリア政府の情報に基づくと主張する。だが偵察後、市民が通り掛かる可能性は当然ある。シリア政府の情報に頼るなら、反体制派への攻撃を誘導される疑いも残る。いずれにせよ本来の目的でない「死」を招きかねないのだ。これを「やむを得ぬ犠牲」と片付けるのは許されない。人道が試されているのである。