<南風>氷河があるうちに


社会
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 観測船勤務のころ、航海終了後に航海中の土日分の休みをまとめて取り、長い航海の後には30連休などということもあった。そんな長い休みを利用して、登山と鳥を見るために海外にもしばしば出掛けた。

 私がこの目でぜひ見ておきたかったのが、アフリカ大陸の最高峰キリマンジャロ山頂近くにある氷河だ。進行する地球温暖化の影響でこの氷河は年々縮小し、消滅への「カウントダウン」が始まっている。

 キリマンジャロ登山には特別な技術は要らない。基本的に歩いて登れる。だが6千メートル近い標高が最大の難敵だ。高度順応ができなければ高山病で下山を余儀なくされる。実際登頂率は5割ほどらしい。

 2008年、私は無事に登頂して氷河をこの手で触ることができた。遠くからは小さく見えた氷河だが、そばに行くと10メートル以上の見上げる高さだった。

 しかし昔の写真を見るとその縮小は明らかで、世界気象機関はこの氷河が2040年代にも消滅する恐れがあるとしている。

 地球温暖化で勢力を拡大する動植物はいる。だが冷涼を好むものや極端な高温を嫌うものは追われる一方だ。日本アルプスなどに生息するライチョウ、限られた高山に生息する植物やそれを食べるチョウの将来はキリマンジャロの氷河の運命をほうふつとさせる。

 それは高山や寒冷地だけの話ではない。沖縄の海を象徴するサンゴも同じく危機にある。これまでも異常に高い水温にさらされてサンゴの白化が起きているが、温暖化が進行すると高水温の頻度が増え、白化したサンゴが回復する間もなく次の高水温にさらされるという深刻な予測がある。

 こんな議論を一気に吹き飛ばすのが、世界で起きている軍事侵攻や政変だ。氷河やサンゴより今飲む水がきっと重要だろう、と「沖縄屈辱の日」に改めて思う。
(河原恭一、札幌管区気象台(前沖縄気象台)地球温暖化情報官)