<南風>フィールドサイエンス


社会
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 最近は山原のシークヮーサーから有効成分を探している友人が学生の頃、瀬底の臨海実験所に私を訪ねてきて、生き物のことは分からないが、沖縄のために研究をしたいと言う。ノーベル化学賞の下村脩と同門の研究室に所属するウチナーンチュである。

 聞けば、糸満の海人の話として、ラッパウニを海中でつぶすとオニヒトデが集まってくると言う。物質が特定できれば、オニヒトデが一網打尽にできるかもしれないと、研究が始まった。水槽にオニヒトデを放ち、ラッパウニの抽出液を染み込ませた寒天を置くと集まってくる。分析の結果、アラキドン酸と言う脂肪酸が特定された。

 研究領域によって価値観は違うもので、新規物質のように特許が取得できないので、研究室での評価はあまりパッとしない。私の興味としても、物質を介してラッパウニとオニヒトデのつながりが判然としないもどかしさがあった。

 さらに調べていくと、この物質は傷ついたサンゴからも流れ出ることが分かった。オニヒトデは血の匂い、つまり餌の匂いに集まっていた。後に、サンゴの移植に関わる人から、移植間もないサンゴにオニヒトデが集まりやすいと聞いた。移植で傷ついたり、ストレスがかかったりしたサンゴからは、この物質がたくさん出ているのかもしれない。

 野外で観察される、複数のオニヒトデが一つのサンゴを集中的に食害する理由もうなずける。オニヒトデのように遠くから集まりはしないが、サンゴを食べる巻貝も、この物質を好むことも後で分かった。

 匂いで集めて退治することをもくろんで、特許も取得した。いよいよ大発生の報に接して、オニヒトデホイホイを設置したが成果が芳しくない。フードコートで満腹の客は食べ物の匂いには釣られなかった。自然は一筋縄ではいかない。
(中野義勝、沖縄県サンゴ礁保全推進協議会会長)