<南風>ギニアグラス


社会
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 瀬底の臨海実験所と西表の熱帯農業科学研究施設を母体とする琉大熱帯生物圏研究センターが50周年を迎えた。地域に根差した活動を学際的に展開できたのは、多くの先達に支えられ理解を深め合ったたまものだろう。先達の活動は、浅学な私に農学へ目を向ける機会をも与えてくれた。

 今では誰もが知る石垣牛だが、温暖な気候に目をつけて八重山で牛の畜産を始めた当初は課題も多かった。その一つが牧草だった。元々冷涼な地域で発達した畜産では、牧草もその地の気候で開発されていて、亜熱帯の気候では十分に育たない。と言って、牧草に輸送コストをかけていては商売にならない。そこで熱帯域での牧草探しが始まった。まずは沖縄とも縁のある南米の品種が導入された。気候は合っているのでよく育つが、刈り取りを重ねると消えてしまう。

 あれこれ試行錯誤の結果たどり着いたのが、アフリカ原産のギニアグラスだった。どちらも広大な土地での放牧が主で刈り取りをしないので見過ごされていたが、進化の過程が違っていた。南米では大型の草食獣が群れて草を食むことがないが、アフリカでは常に草食獣がたくさんいるので食われる植物もこれに適応して再成力を獲得していた。

 分かってみれば合理的な視点が加わった。今でも有名産地へ子牛を提供する繁殖が多いものの肉を生産する肥育にも力を入れた結果、石垣牛のようなブランドも確立し観光の目玉にもなった。

 技術の進歩は新たな課題も生み出す。島と裾礁(きょしょう)は水文学的に一連だ。狭い島での農業はやり方次第で、赤土流出のように裾礁に直接影響する。畜産のし尿もまた、水質汚濁源となる。

 50周年式典では島々で古くから人間の影響のあることが示された。人新世の琉球列島で人と自然の持続的な在り方の模索が続く。
(中野義勝、沖縄県サンゴ礁保全推進協議会会長)