<南風>温故知新のシルクロード


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 県立博物館で催された「悠久のシルクロード展」を観覧した。西はローマから東は京都・奈良まで、海や草原、砂漠ルートを経て運ばれたさまざまな文化遺産を堪能した。アレクサンダー大王、唐僧玄奘、空海・道元、有名無名の旅する人が「媒介」となって東西の文化が伝えられ、受け入れられた。少し妄想めくが、筆者独自の感想を述べたい。

 展示品の目玉である「仏陀座像」に目が引かれた。穏やかなほほえみを浮かべる座像の端正な顔立ちがどうも誰かに似ている。ふと思いついた。MLBで活躍する大谷選手の雰囲気がどことなく似ている。何かを達成しても決しておごらない(謙虚)、常に温和で激しい感情をあらわにしない(和顔愛語)、足元のごみを拾い淡々とやるべきことをこなす(脚下照顧)。その振る舞いがどこか仏教的な教えに通じる気がする。

 大谷選手の成績はもちろんすごいが、人格や振る舞いの見事さが日本を超え、海外の選手や観客にも称賛される。米国式の「弱肉強食型」「勧善懲悪型」でない、新たなヒーロー像が受け入れられたのだ。

 そういえば大谷選手の出身地岩手県は奥州藤原氏3代の繁栄の下、平和・平等の仏教精神が培われた場所だった。野球と仏教は全く関係が無いが、大谷選手という「媒介」を通じて日本・東北の素晴らしい文化・気質が北米に運ばれた、と考えたら面白いのではないか。

 シルクロードは過去の遺物ではない。その終着点が日本だと誰が決めたのか。海を渡ればその先には南北アメリカ、オセアニアがあり、さらに向こうにヨーロッパ、アフリカがある。私たち一人一人が媒介となって、日本の東や南の海上にシルクロードを伸ばしていき、日本の良いモノ、文化をどんどん世界に広めればいい。この展覧後、また海外に出張・旅行したくてうずうずしてしまった。
(絹川恭久、琉球法律事務所・弁護士)