<南風>命に向き合うこと


社会
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 東京大学の動物医療センターで外科研修医を経て沖縄に戻り今の病院で勤務を始めた。その後数年は研修医時代に学んだ技術の再現に躍起だった。大学では外科だったが一番感じたのは内科の大事さ。手術が成功しても前後の内科治療ができなければ命は救えない。サッカーで例えれば外科はゴールを決めるストライカー。内科はパスをつなぎ得点を防ぐ守備に等しい。

 まずこのチームを作る必要があった。最初は全て自分でやりながら少しずつスタッフも成長し自分の技術も上がっていった。病院に寝泊まりするのは当然で、家に帰るのも明け方で数時間寝て早朝病院へ行く生活。何かに取りつかれたように患者に向き合った。

 動物が治る姿を見られたことと飼い主さんからの感謝の言葉は大いに励みになったが、それよりも少ないながらも亡くなる動物がいたのも事実。この時の悔しさと何が悪かったのかを徹底的に振り返ることがさらなる飛躍を招いた。時には死後解剖もさせていただき徹底的に死に向き合った。自分が悪かったのか、患者は手遅れだったのか。そこからの知見を次に生かす。

 これは医療に限ったことではなく、どんな仕事もそうであろう。失敗を他人のせいにしていればいつまでたっても成長はできず同じ過ちを繰り返す。厄介なのは失敗だと気づいていない場合。なのでまずは気づくためにも振り返りを日常で自分自身に行うことを癖にする。その上で何が悪かったのか分からない場合は初めて他人の手を借りる。本でもネットでもいい。

 過去の偉人も皆同じような悩みに直面しもがきながら前進した。それを知るだけでも随分、心は楽になる。相手を知り己を知れば百戦危うからず。2500年前の偉人、孫子の言葉は今でも世界中のビジネスパースンに影響を与えている。真似しない手はない。
(周本剛大、琉球動物医療センター院長 沖縄VMAT隊長)