<南風>推し活


社会
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 沖縄に来てから韓国の弁護士団体との交流の機会に恵まれ、毎年最低1度(コロナ前)は韓国を訪れるようになった。そこで直面したのが、韓国語が全く分からないことの不便さだった。街角の案内が読めない。カフェのメニューも分からない。これではもったいないと、4年ほど前から独学で韓国語の勉強を始めた。そこで出会ったのが、防弾少年団(バンタンソニョンダン)=BTSだった。

 テキストの勉強だけでは味気ないので歌を聞いて発音を学ぼうと検索した際、偶然彼らの曲を見つけた。アイドルと呼ばれる人たちもK―POPにもついぞ興味のなかった私は驚いた。

 「へえ、こんな若いアイドルが、こんな歌を歌いこなすんだ」「アイドルなのにうまいなあ」。私は今、当時の自分をしかりつけたい。なんというバイアス、決めつけ。「アイドル」だからどうのこうのという偏見は、少しずつバンタンの歌を聞くようになりパフォーマンスを見るようになって、どんどん消えていった。

 彼らはくだらないバイアスを実にカッコよく一蹴する。代表曲の一つである「IDOL」では「アイドルとでもアーティストでも好きに呼べばいい」「俺は自由だ」「お前は俺が自分を愛することを止めることはできない」と宣言する。

 そして果敢にアジアンヘイトに対する抗議を行い、時にはK―POP界の在り方も批判する。バンタンのおかげで、決めつけて知ろうとしないことのばかばかしさが、以前より理解できるようになった気がする。

 なかなか進まない韓国語の勉強も兼ねて「推し活」を楽しみながら自分の世界を自ら狭くすることなく、これからも新しい何かに出会ってみたいと思う。ついに兵役に就くことが発表された彼らを思いながら、その歴史的経緯や現在の情勢について他人ごととせず真剣に考えたいとも。

(林千賀子、弁護士)