<南風>わが辞書に希望の光あり


社会
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 私は仕事柄、各種大小の英語辞書を十数冊持っているが、「1969年2月6日求む」と記された三省堂の「コンサイス英英辞典」こそ、若き日の戦友とも言える特別な一冊だ。

 当時、私は米軍基地で事務員として働きつつ、夜は沖縄大学二部法学科に通っていた。自分の未来を切り開こうと、当時の在沖米国民政府(USCAR)が実施していた学費生活費全額給付の米国留学試験に挑戦すると決め、この辞書を購入したのである。この辞書に私は希望を託した。

 新しい辞書を手にしたその日から、「米留生」になることを目指して、仕事と学業の合間を縫い、睡眠時間を削り、平日は4時間、土日は10時間以上を英語の勉強に充てた。

 英語習得の方法として辞書を徹底的に活用した。教材は文法書と米国第35代大統領J・F・ケネディの演説集を選び、完璧に読み込んだ。語句の意味はもちろん、発音記号、アクセント、構文、文法に至るまで確認した。付録のソノシート(薄いビニール製のレコード盤)でケネディの肉声演説を聴きながら同時に音読するシャドーイングを全ページにわたり繰り返した。

 演説集と辞書は常に持ち歩き、バスを待つ間や昼食時間など、あらゆる機会に音読し、特にケネディの就任演説は全文を暗記した。この努力のおかげで英字新聞はすらすらと理解でき、英会話も楽に話せた。

 ある日、職場の米人上司が「君の英語はこの数カ月で驚くほど上達したね。いったいどのように勉強したの」と聞いてきたので、私は「JFKに教えてもらったのです」と笑って答えた。そうして臨んだ米留試験は20倍の競争を乗り越え、無事合格。この辞書は手あかで真っ黒になり、びっしり赤線が引かれ、若い日の苦闘の跡が刻印されている。若き日のわが辞書にはまさに希望の光が輝いていた。

(澤田清、澤田英語学院会長 国連英検特A級)