<南風>詐欺かと思った


社会
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 見知らぬ番号から電話がかかってきた。電話の向こうの男性は丁寧にあいさつした後にコラム執筆に協力してほしいと話す。詐欺かと思った。あまりに前触れのないこのオファー。なぜ私に。ましてやお会いしたことのない海の向こうに住む方からの電話。なぜ私に。一度考えてみますと伝え、これでもかというぐらいに怪しんだ。歳とともに勘繰り深くなった私のそんな危険探知機は「コラム執筆詐欺って何だよ」というシンプルな疑問とともに無事起動することなく済んだ。

 石橋はたたきもせず目をつぶって駆け抜けるタイプだ。何事も自分の得意不得意や後先よりも、その時の自分がわくわくするかどうかで決める。今回もしかり。一方的な詐欺疑惑が晴れてからの「南風」の執筆という依頼は、なんだかわくわくした。執筆者情報を提供するなど具体的に話が進む中で、まれに登場する「落ち着いた自分」からの疑問が聞こえてきた。

 「そんなに書けるネタありましたっけ?」「締め切りは守れない方が多くないですか?」「誤字脱字の天才、大丈夫ですか?」。自分自身に難題を課したことには早くも気付けている。

 月に2回の744字に私は何をつづろうか。まずは自分自身の話から書くべきだろうか。福岡出身の父と台湾出身の母の下、石垣島という南国に生まれた話、異文化に囲まれながら過ごした大学生活の話、芸能事務所でアイドルのマネージャーとして駆け回った話、26歳で地元に帰りフリーランスで地域のコミュニティーを放浪しまくった話、同じ志の仲間と共に会社を設立した話、コミュニティーマネージャーとして場の運営をしているコワーキングスペースの話、自分自身がOGであり今は指導に関わっている現代版組踊の話。なるほど。そんなことを書いているうちに訪れてしまうのが744字なのだな。

(岩倉千花、empty共同代表)