<南風>マングースーの瞳に


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 前作の主役はヤギであり、最新作の主役は人魚伝説の元となったと言われる生き物・ジュゴンだ。過去作品も同じように動物が題材となっているものが多いが、それは僕のこれまでの生活が動物に囲まれていたからだと思う。

 小学生の頃、わが家は友達から「動物園」と呼ばれていた。庭ではウサギと鶏が共存し、家のなかはネズミやインコ、昆虫が仲良く暮らしていた。
 たくさんの動物を飼育するなかで、ウサギは猫に食べられることや、ネズミは熱中症で死ぬこと、チョウの卵は乾燥すると孵(ふ)化しないことなど、命というものを肌で感じて育った。
 そんな僕がいま大変興味を持っている動物が、沖縄の人なら誰でも知っている生き物、マングースーだ。この夏、大学の研修でインドネシアのジャワ島に滞在していたが、街の露店で剥製(はくせい)になったマングースーを目撃した。その時、ジャワ島こそが沖縄に生息する「ジャワマングースー」の故郷なのだと知った。
 そもそもマングースーは沖縄に昔から生息していたわけではなく、ハブやネズミ退治のために東南アジアから人間の手によって持ち込まれた外来生物だ。しかし、今となっては沖縄在来の動物を捕食するといった理由で盛んに駆除が行われている。何とも残酷な運命だ。彼らは何一つ悪いことなんてしていない。
 そんなことを考えていると、ふと物語が浮かんだ。家族と引き裂かれ、見ず知らずの国へ連行される子どもの物語だ。マングースーを擬人化して、彼らの思いを代弁しようと思った。しかし、考えているうちに心が耐えきれなくなり、それ以上物語を構想することができなかった。
 今後、もし道端でマングースーに遭遇したら、彼らの瞳に映るわれら人間の姿をぜひとも想像してほしい。
(仲村颯悟、映画監督)