<南風>反省している暇はない


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 講演会で少年院の教育を紹介するたびに、外部の方から「こんなに素晴らしい指導を受けた子どもたちは二度と過ちを犯さないでしょうね」と賛嘆の声が上がる。嬉(うれ)しい言葉だが、残念ながら、そう簡単なものではない。沖縄少年院在院者の約2割が再入院者。これが現実の数字だ。

 再入院者は、入院後間もなく、前回の少年院生活で担任を務めた法務教官のカウンセリングを受ける。それは、子どもたちにとって、辛(つら)い再会に違いない。
 僕が居室に入ると、再入院したばかりの彼は、青ざめた表情でこちらを見た。コンクリートと鉄格子で囲まれた冷たい空間に緊張が走る。長い沈黙の後「どんな気持ち?」と声を掛けると、彼は絞り出すような声で「反省しています」と答えた。そして、僕が「そんなの、お前の顔を見れば分かるさ」と諭し、笑顔をつくった瞬間、彼は堰(せき)を切ったように嗚咽(おえつ)し始めた。
 僕は、再入院した子どもを叱ったことがない。それは、成功というものが、失敗の反復によってのみ育まれるものだと知っているからだ。「待つこと」は「何もしないこと」とは異なる。これからも、僕は、彼らを待ち続けるだろう。
 思いきり泣いて気持ちが晴れたに違いない。ようやく落ち着いた彼に、僕は伝えた。「覚えておけよ、人間は痛みを忘れる生き物だ。一時は反省しても、また同じことを繰り返す。それならば、反省ではなく、学んだことを数える方に時間を使うんだ。転んだら、泥にまみれた手を開け。そして、何をつかんだのか、それがこれからの人生にどう役立つのかを考えろ。立ち上がるのは最後でいい」
 彼は、泣き腫らした目をこすりながら、大きくうなずいた。雨上がりの空のように澄んだその目は、これから訪れる少年院生活の先の「未来」を見つめているかのようだった。
(武藤杜夫、法務省沖縄少年院法務教官)