<南風>グリーフがもたらす成熟


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 人には、発達上の「成長」と人格的な「成熟」がある。「成長」は目標に向かって向上、もしくは何らかの獲得により自らを拡大すること。一方、「成熟」は年齢や経験を重ねて、内的充実や高次への変化をいう。喪失がもたらすのは成熟といっていいだろう。愛する人を失いゆく苦悩は計り知れず、グリーフ(死別悲嘆)を受け入れる過程は苦痛に満ちている。しかし耐えがたさを秘め、永遠のように思える長いときを経てグリーフがもたらすのも、実に人格的成熟である。

 癒やされぬ深い悲しみ、喪失に伴う苦痛を通り抜けて、新たな人生の意味を見い出していく心の過程をグリーフプロセスという。グリーフは悲しみだけではない。怒り、不安、恨み、罪責感、後悔、孤独、混乱…ありとあらゆる負の感情が湧き出てくる。
 思えば人生は誕生から死に至るまで、常にグリーフプロセスにあるのかもしれない。また生きること自体がグリーフワークに思えるときもある。しかし私たちはグリーフを通して多くの愛に目覚める。グリーフは大切な人の存在を教えてくれるからだ。今自分にとって最も大切にしなければいけない人は誰か。その人のためにも、悔いのない今日を生きているだろうかと。
 このように、喪失は人間性をより深める。グリーフは、新しい自己の確立へ私たちを導き、まさに生きる意味を考えさせる尊い経験ではないだろうか。人が悼み、悲しむという行為に気高さを感じるのは、そのためかもしれない。
 グリーフワークおきなわは、「悲しみのうちなる豊かさを信じて」という理念で活動している。健康な毎日や平凡な日常こそ感謝すべき幸せな日々だったと知り、希望や可能性に目が向けられる。絶望と闘い、悲しみに向き合いながら、「前」へ進む勇気を共に見いだしていきたい。
(関谷綾子、グリーフワークおきなわ)