<南風>愛はつづく、深く豊かに


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 私たちは亡くなった方と共に生きることができる。故人を思って懐かしみ、グリーフ(死別悲嘆)を抱えたまま生きていく。これもまた故人を愛することだ。たとえ先に逝かれても愛は終わらない。これまでとは別のかたちで、大切な故人を心の中に位置づけ、その愛をしっかり育んでいくことができる。それは故人との関係だけにとどまらず、故人と共に歩んだ人々との間でも然(しか)り。さらに新しい人間関係においても花開く。愛に愛が加えられ、命の限り受け継がれていく。グリーフを通して、故人に連なる人々や、本来の自分と出会う。グリーフがあっても、いやグリーフを経験したからこその人生を、自分に期待しようではないか。

 コラムとしては重い話題を伝えてきた。昨今、健康や金儲(もう)け、自己実現を目指す内容の講演・講座は数多くあるが、グリーフワークおきなわは死別悲嘆を扱い、「悲しみに向きあうこと」と、「周りの人の支え方」を考える。私たちは、グリーフのトンネルを通ってきた人のやさしさ、強さ、豊かさを知っている。適切に寄り添う支援があれば、悲しみは消えずとも和らぎが訪れ、悲しみを通ったからこその生き方が見えてくる。悲嘆の過程を通して、互いにより良い生き方を見い出せる支援が地域に広がることを願う。
 文豪トルストイ曰(いわ)く。「熱烈に愛することなかりせば、深い悲しみもなし。されど、この愛さずにいられぬことが、悲嘆を和らげ、癒やしもする」。先に逝ってしまった人は、遺(のこ)された人の幸せを望んでいる。私たちが私たちらしく生きていくことを願っていたはずである。愛するからこそのグリーフだが、この愛こそがあらためて生きる力となり、その後の支えともなることを心に留(とど)めたい。悲しみは消えないが、愛はつづく。より深く、さらに豊かに。
(関谷綾子、グリーフワークおきなわ)