<南風>映画に捧げる覚悟


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 前作から5年ぶりに制作した長編映画「人魚に会える日。」の興行活動もいよいよ本格化してきた。これまで誰も描こうとしなかった沖縄を描いたこともあり、公開前からさまざまな意見が届いている。そんな様子を周りから心配されるが、そのようなことで心が折れてしまうほど簡単な気持ちで本作を制作したわけではない。

 物事を自らの手で進めていくには絶対に揺らぐことのない覚悟が必要だ。逆に言えば、覚悟さえあれば不可能なことはないだろう。
 宮崎駿監督が作品を作り終えるごとに引退を宣言していたのは、その作品に人生を懸けて挑んだからだと思う。これが遺作になっても構わないという覚悟で作品を世に送り出しているのだと考える。そして今回、僕は同じような気持ちでこの映画に全てを捧(ささ)げた。寝る時間を惜しんで作品の資料を作成し、みんなが遊んでいる時間に必死にアルバイトをし、稼いだお金を制作費につぎ込む。苦しいと思ったことは何度もあるが、後悔をしたことはない。
 覚悟を決めた。この作品のためになら何でもやると。この作品の宣伝のためにならどんな取材にも全力で応えようと。その覚悟があったからこそ、撮影時からスタッフが側(そば)にいてくれる。スタッフもまた同じような覚悟を持っていてくれる。
 映画は完成を迎えたら終わりではなく、公開し、お客さんの心に届いてからが始まりなのだ。まだまだ先は長いだろう。しかし昨年固めたこの覚悟だけは、絶対に忘れずにこの先も歩んでいきたい。そしてどうか多くの人に届いてほしい。作品は来年2月に桜坂劇場で公開される。
 「やると決めたら覚悟を決めてやれ。本気でやれ。それなくして夢はつかめぬ」。父が亡くなった当時、小学生の僕を励ました詩人・須永博士さんの言葉だ。
(仲村颯悟、映画監督)