<南風>白夜のレイキャビクで


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 レイキャビクには随分昔から行ってみたいと考えていた。小学校高学年の時の読書感想画の題材が、この町を舞台にした物語だったことが頭の片隅に残っていた。昨年、ヨーロッパを訪ねた折、思い切って足を伸ばすことにした。飛行機賃が随分安くなったことも背中を押した。

 アイスランドといえば、火山に温泉、氷河、雄大な自然が魅力だが、個人的な目当ては音楽。ビョーク、ザ・シュガーキューブス、シガー・ロス。アイスランドは音楽大国なのだ。
 CDショップ「12Tonar」。店主に新しいバンドのオススメCDを尋ねると、すぐに8枚を選んで、コーヒーを勧めつつ試聴させてくれた。土地の音楽に精通した人に直接キュレーションしてもらえるのはありがたい。
 5月のレイキャビクはほぼ終日陽が落ちない。午後9時、フリーペーパーで知った地元バンドのライブを聴きに、陽射しを不思議に感じながら歩く。カウンターでビールを飲んでいると隣に座った男が話しかけてくる。音楽や経済、映画、サッカー、話題は尽きない。「今の時代は情報や流通が、整備されているけど、島国というのは、基本その中だけでさまざまなことを解決しないといけないという点で、似ている」。そんな話に適当な相槌(あいづち)を打つ。
 上のフロアで演奏が始まる。シンガーソングライター系と思っていたら、ハードコアパンクバンド。さほど広くない店内は立錐(りっすい)の余地もなく客席にビールの泡が舞い、モッシュが渦巻いた。そんなパフォーマンスを老若男女が当たり前に楽しむ様子がとても自然で悪くなかった。
 深夜1時過ぎ、通りに出るとまだ陽は沈んでいなかった。西に落ちるはずの太陽が、そのまま昇る。そんな誰かの曲を思い出していた。
(野田隆司、桜坂劇場プロデューサー・ライター)