<南風>過去から未来へのバトン


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 この一年間、波照間島の半世紀前の神事を記録した写真をまとめ、電子書籍写真集「HATERUMA1965」として蘇(よみがえ)らせる仕事に携わった。完成するまでの苦労話は山ほどあるが、それよりも、半世紀以上も前に地縁血縁もない者が島に長期滞在しながら、祭祀(さいし)や風習を記録してきたという著者のご苦労とは比べものにならない。

 昨年の夏、ちょうど豊年祭の頃、著者のアウエハント静子さんと共に波照間島へ渡った。目的は、半世紀前の写真と現在の様子を比較するための追加撮影だったのだが、波照間の豊年祭は島の人のための伝統祭祀で、祭祀の現場にはよそ者を一切近寄らせないかのような独特の緊張感が漂っていた。まるで結界が張られているのではないかと思うほどである。
 島に長年通い続けている静子さんと共にいてもアウェー感がすごかった。それが今から半世紀も前の時代に、しかも外国から学者夫妻がやってきて、隣の集落にも見せたことのない行事の一部始終を記録させてもらうという、前代未聞の出来事だったわけで、取材当時は大変ご苦労されたことであろう。
 今年で御年78歳になる静子さんは、「50年前に記録させていただいた写真は、波照間島の方々をはじめ、沖縄の後世のためにお返ししたい気持ち。ぜひ多くの皆さまにご覧いただきたい」との思いを常々語っていた。
 苦労して撮った写真なのに、それを自分だけの財産にしてしまわずに共有したい。何とかして後世に残したいというお気持ちの方が強い。私も微力ながら、つなぎ手のひとりになれたらという思いがある。
 電子書籍の写真集が完成したからといって、これがゴールではない。むしろスタート地点だ。これから多くの方につないでいこうと決意を新たにしている。
(桑村ヒロシ、写真家)