<南風>笑いに出合う


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 東京では、時間をみつけて寄席に足を運ぶことにしています。予約なしで行けるし、入れ替えのないところが気に入っています。

 落語は、噺(はなし)家によって表現が違います。噺家それぞれの雰囲気や声、表情、しぐさなどいろいろな面白さを発見できます。駆け出しらしい前座がめくりをしたり、座布団を運ぶ所作の美しさにほれぼれすることも。
 休日でもないのにほぼ満席。客もさまざまで、若い女性集団や、年配の夫婦。カバンを持ったサラリーマン風の男性は席に着くやいなや睡眠状態。入場料を考えると、かなり高値な睡眠です。
 寄席で落語を聴くこととテレビで見る場合の違いには、隣の席との距離が近い、ということもあります。「よせせき」というくらいだから当然かもしれません。
 隣席の笑いもじかに伝わってきます。落語に慣れていない私は、笑いにタイムラグがありながらも、ついていきます。思わず隣の笑い方に惹(ひ)かれることがありました。大声でわざとらしく手を叩(たた)いて笑うのではなく、気持ちのよい声でタイミングよく笑い、噺家を応援しているようで、いかにもスマート。「いい笑いだな」と思わず顔を見たら、30歳前後の若い男性でした。目が合って、思わずつられて笑いました。「笑い上手」は、隣を友達にもします。
 笑いの効用は多くの分野で立証されています。最近は表現力や発想力を磨くために学校教育でも笑いを取り入れた「笑育(わらいく)」や日本笑い学会という活動団体もあります。
 無理に面白いことで笑わせようとか、何か気の利いたことを言わなくても、「笑い」を共有するだけで場が和むし、話し手も力が入ります。寄席では一人で笑ってもいいのですが、やっぱり誰かと笑うのが楽しいですね。
 今年は「笑いと出合って」福を呼び寄せたいものです。
(青山喜佐子、オフィスあるふぁ代表)