<南風>ノーベル賞と稷門賞


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 東京大学の2015年最大のニュースは、現役教授である梶田隆章・宇宙線研究所長がノーベル物理学賞を受賞したことでした。10月6日夕刻にその知らせが梶田先生に届いたとき、大学ではちょうど、稷門(しょくもん)賞という賞の授賞式後のレセプションの最中で、総長ほか、役員、研究科長、研究所長が一堂に会しているときでした。急ぎ、別の建物内に記者会見の場が準備され、梶田先生はそこに移動して、その後テレビで何度も放送された、あの記者会見が開かれたのでした。

 その2カ月ほど前に私は、大学の環境安全の担当として、受賞対象となったニュートリノ研究が行われた岐阜県飛騨市神岡町の旧鉱山深くに造られたスーパーカミオカンデ施設を視察する機会がありました。そこで施設長の中畑雅行先生から、研究過程での苦労も含め、詳しい説明を伺っていただけに、梶田先生の受賞は特に大きな、そして実感のある喜びとなりました。
 ノーベル賞の知らせが入ったその日に授賞式のあった稷門賞というのは、寄付などによって東京大学の活動の発展に貢献された個人や団体に授与される賞です。稷門は中国の戦国時代の斉(せい)にあった城門で、王が学問を大事にして学者が学問に打ち込めるように厚遇したため、そこで学問が栄えたという故事があります。梶田先生も記者会見の席で、神岡町の方々への感謝を述べていましたが、学問の進展にはこうした支援が欠かせません。大学への支援に感謝する稷門賞の授賞式の当日にノーベル賞の知らせが入ったのは、とても象徴的なことでした。
 そして個人的には、スーパーカミオカンデ施設を視察できたこと、吉報が届いた場、そして記者会見の場で、梶田先生の間近にいて、直接お祝いの言葉を伝えることができたことは、このうえなく幸運でした。
(南風原朝和、東京大学理事・副学長)