<南風>「へんなー」病を越えよう


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 大学に入学してもすぐに陸上を始めたわけではない。当時、海邦国体の2年後で、新聞やテレビなどで特集された有名選手が競技場などで見受けられた時代。未経験の自分が勝負できる場所じゃないと勝手に決めつけていた。沖縄でよく言う「へんなー」。気まずい、みたいな感じ。その「へんなー病」にかかって陸上部に入部せずに毎日、だらだらと過ごしていた。

 ある日、『スプリンター』という100メートルをテーマにした漫画を購入した。年老いたコーチが陸上競技を辞めた若い主人公に向かって言うセリフがあった。「今から鍛え上げなきゃ手遅れになる。せっかくのその素晴らしい素質も腐らせちまうんだ」というシーン。それを読んで自分のことのように思った。「素質が腐れていく…」。全身から汗が出ていた。「今だったらまだ間に合うかも」と翌日、夏も終わる頃、大学の陸上競技部に入部した。もちろん「へんなー」だったけど。
 遅れた分、他の選手に追いつくように必死で練習した。そして大学2年の県民体育大会で初優勝。あまりの嬉(うれ)しさに大会後、1人暮らしのアパートに帰ってズボンを脱いで、自分の腿にキスをした。「これが沖縄で1番速い人の足だ!」。そしてこの優勝が自信となって、さらに陸上が好きになり夢中になった。気がつけばいつの間にか「へんなー病」は消えていた。
 人生は自分の可能性を探す旅でもある。可能性なんてやってみなければわからない。誰でも最初は初心者。最初からできるわけでもない。ワクワクしたらその心に素直になって、まずは挑戦することだと思う。いつでもどこからでも、思い立った時が吉日。その挑戦の好奇心が錆びつかないように!あの日から25年以上経(た)ったけれど、あの漫画は今でも心のバイブル。そして背中を押してくれる、「まだ間に合う!」と。
(譜久里武、アスリート工房代表)