<南風>星を伝える仕事


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 今回は一見謎の私の肩書き、「アウトリーチ・スペシャリスト」についてご紹介しましょう。アウトリーチとは英語で元々「手を伸ばす」という意味です。そこから派生して、専門家(科学者)が広く、一般の方々と知識や発見を分かち合うことを指します。人と科学をつなぐ仕事をしている、といえばわかりやすいでしょうか。

 具体的には地元ハワイ島での天文学普及イベントの開催や授業、講演を行っています。保育園児から80歳以上の方々まで、幅広い年齢層を対象に、天文学の魅力をお伝えしています。
 ここハワイ観測所で働き始めて2年が経(た)ちますが、これまでの授業の数は200以上。交流した人は8千人に上ります。好奇心に溢(あふ)れ、キラキラと目を輝かせる子供たちから、ひっきりなしに質問を受ける時ほど、嬉(うれ)しい時はありません。「宇宙ってどんな匂いがするの」。ピュアな質問ほど答えるのが難しく、そしてやりがいがあります。
 観測所スタッフを対象に、ハワイ文化や歴史を学ぶセミナーも開催しています。先月はハワイ語の父と呼ばれている、ハワイ大学のラリー・キムラ教授を迎えてセミナーを行いました。
 ハワイアンの祖先ポリネシア人は、星々を頼りに大海原を自由に行き来していました。ハワイの創世神話クムリポには、壮大なチャント(詩詠)を通して、宇宙と生命の誕生が描かれています。一方、沖縄・八重山地方でも古くから人々は星を使って季節を知り、農作業を行っていました。琉球最古の歌謡集「おもろさうし」では太陽や星々が讃(たた)えられています。
 星がつなぐハワイと沖縄。天頂近くを明るく照らす「むりかぶし」(和名すばる)を見るたびに、「ふるさと沖縄でも、同じ星を誰かがこうして眺めているんだ」と、ふんわり幸せな気持ちになるのです。
(嘉数悠子、国立天文台ハワイ観測所アウトリーチ・スペシャリスト)