<南風>ワルシャワの一夜


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 「マルチーズロックというバンドは、ワルシャワでライブをやることに興味があるかしら。もしあるとしたら条件を教えて」。アナというポーランドに住む女性から短いメールが届いたのは昨年11月のこと。半信半疑でやり取りを続けていたら、ある日先方のホームページに公演が発表されて、ワルシャワ行きの航空券が送られてきた。

 マルチーズロックは那覇の栄町を拠点に活動するミクスチャー・バンド。沖縄やロック、ブルース、ジプシー音楽、さまざまな要素が層をなして、オリジナリティーに溢(あふ)れた音楽を吐き出している。昨秋、ハンガリーのブダペストでの音楽見本市で配布した彼らの音源が、ワルシャワの文化系の基金でアジア音楽のライブシリーズを企画するアナの手に渡ったのが、話のきっかけだった。
 2月のワルシャワ。現地の人は「暖かい」と話していたが、最低気温は氷点下。十分過ぎるほどの極寒だった。今回は、アナがプロデュースする申(さる)年の旧正月にちなんだイベント。会場は詰めれば千人近くは入りそうなクラブ。さすがに満杯というわけにはいかないが、最初に地元の人気バンドが場を温めて、マルチーズロックが迎えられた。
 6人の演奏は、沖縄そのままの安定感。お客さんは「何故(なぜ)ここまで」と思うほど熱狂的に盛り上がった。大半の人にとっては、正体不明の極東のバンドであるはずの彼らだが、誰もがその音を心から楽しんでいた。国境の意味を曖昧にする、言葉を超える説得力や存在感というのは確かにある。それはマルチーズロックの場合、才能とは別の、生き様(ざま)のようなところから湧き出しているようだ。
 異文化が理解される感覚というよりも、マルチーズロックが沖縄発の音楽としてきちんと海外で受け入れられる様子は、実に美しく痛快な瞬間だった。
(野田隆司、桜坂劇場プロデューサー・ライター)