<南風>漢方医学の構造


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 地球38億年の生命の歴史で、人類は地球上のいついかなる環境でも活動できるように恒温動物へと進化し、身体能力の不足を補うべく脳が極端に発達した。
 その人体は水、食物と酸素を取り入れ熱を発生させ、体温に温められた水を呼気、汗、便、尿に排泄(はいせつ)し体温を維持する。自動調節により体温が維持できなくなった状態を漢方では病気と考え、冬、寒い北風で冷えて起こる風邪をモデルに傷寒論ができたと考えられる。

 体の表面が冷えた場合、体が震えて発熱し、体温が十分上がったら汗が出て解熱するが、冷えすぎて体温が上がりにくい場合、葛根湯などの処方で体表を温め、発汗・解熱させる。さらに病気が進み咳(せき)や便秘・下痢など呼吸器や消化器の症状を伴うと、炎症を抑え、尿や便を排泄する複雑な治療で回復を図る。
 体が熱を発生させる仕組みを代謝といい、それが活発な風邪を陽病、代謝が低く冷える場合を陰病とした。代謝が盛んであると汗、尿、便など水の排泄で体温を調節できるが、代謝が低く冷えが強いと、代謝を刺激し体を温める必要がある。その代表的な漢方薬が乾姜(干したショウガ)、附子(ぶし)である。この陰病の温める治療が現代医学にはない漢方の際立った特徴であると真っ先に感じた。
 漢方は病気の成り立ちを気、血、水のめぐりの不調から眺めるので現代医学とは勝手が違い、病気を漢方的に考える頭に切り替えるのに時間がかかる。しかし考え方を習得すると、痒(かゆ)いところに手が届くような治療ができると実感している。
 生理学では人体は自律神経、ホルモン、免疫のバランスが相互に連動して体内環境が一定に保たれ、恒常性が維持されるとする。その考え方が反映された臨床医学が漢方であると考える。従って漢方の考え方は時を超えて臨床医学に不可欠であると考える。
(仲原靖夫、仲原漢方クリニック院長)