<南風>直感を大事に


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 子供の頃に憧れていた仕事というのがあると思う。私の場合は、人とはちょっと違う感覚をもっていたのかもしれないが、大人になったらなりたくないと思っていた職業があった。公務員とサラリーマンだった。「では何になるのか?」と疑問に思うかもしれないが、やりたいことは明確にあった。その目標に向かって、新聞奨学生として住み込みで働きながら学費を稼ぎ、写真や編集を学んだ。

 卒業後は大手出版社に就職。結局、はじめはサラリーマンになった。それはそうだ。まだまだ実力もコネクションも資金もないのに、いきなり自営できるはずがない。そう考えるのが、世間一般の考え方だろう。
 しかし、3年後には独立した。20代で会社まで設立するとは周囲からは無謀だと思われたかもしれないが、起業家を目指していたわけではなかった。独立志向が高かったというよりも、むしろタイミングを重視。当時は、印刷や出版業界の仕組みが大きく刷新していく可能性があった。今でこそ、撮影から出版までの行程がほぼすべてデジタル化されているが、そのとき直感で、近い将来、劇的に変わる兆しを感じた。
 チャンスは待っていても来ない。ここぞという時に一歩踏み出して、つかみにいかないと。黎明(れいめい)期から積極的に関わっていくことで、若手であってもパイオニアになれる可能性がある。自分の中に湧き出す期待感は、同時に存在する不安よりも勝っていた。新しい時代の扉の向こう側はまだ荒野かもしれないが、開拓していこう。チャレンジすることへの失敗を恐れてはいなかった。
 流行ものが好きなのではない。時代の移り変わりは早いが、書くことや写真を撮ることは普遍的な仕事だと思っている。流されずに波に乗り続けるためにも、自分の直感を信じるようにしている。
(桑村ヒロシ、写真家)