<南風>暮らしを第一に


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 うえのいだが考える平和で幸せな姿は、家族みんなで食卓を囲み、おいしいねと言いながらご飯を食べる姿だと考えている。食材も自分たちで作ったもので、子供たちと共に調理したものだとより幸せだと思う。

 「ぼくらは、ぼくらの旗を立てる。」暮らしの手帖の編集長だった花森安治が研究室の屋根に掲げた一戔五厘の旗。旗はぼろキレを継接(つぎ)はぎしたもので、暮らしを何よりも第一にするという花森の決意であり、民主主義の民は庶民の民、企業の利益や政府と考え方がぶつかった時は、それを倒す。それが民主主義だと主張したものだった。
 花森には及ばないが、うえのいだも暮らしが大事だと思っている。自分たちの手で暮らしを作りたい。その核になるものは食卓、団欒(だんらん)で、家族みんなで過ごす時間が大事、家族みんなで時間を共有することが大事だと思っている。
 ふと見渡すと、ものが溢(あふ)れている。僕らの幸福感を満たすものは、もう揃(そろ)っていて、どこにいても接することができる。こうしたい、ああしたいと思って作ろうとする前に、雑誌やネットでカタログのようにイメージ化され整理されている。
 私の仕事部屋の入り口にかかっている暖簾(のれん)。破けた白いシーツを切っただけのものだが、長女がその暖簾に、カタカナとアルファベットを模様に見立てて描いてくれた。いつものお絵描きより少し真剣な顔と手の運び。どこにでもある黒マジックとシーツでできた暖簾を見て、こういうことが、いつの間にか僕らの暮らしから離れていたんだと気づかされた。
 うえのいだの畑は「台所とつながる」がコンセプトであり目標だ。仕事部屋を往(ゆ)き来しながら暖簾をくぐるたび、どこかの食卓の団欒で、パクッと口に運んだうえのいだの野菜に、ニコッとなるような野菜づくりができたらと思う。
(玉城真 うえのいだ主宰、珊瑚舎スコーレ美術講師)