<南風>銀メダルへの感謝込め


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 41歳だった2012年、県民体育大会で追い風参考記録ながら10秒79を出せた。その年の世界ランキング3位相当だったことで、世界を意識するようになった。世界の短距離界は米国やジャマイカなど、黒人選手の活躍が目立つステージ。その中に自分がいるとは想像がつかなかった。

 そして2013年、世界マスターズ陸上ブラジル大会への出場を決意した。強烈なライバルが出現した。陸上競技10種競技の元日本王者でタレントとして活躍中の百獣の王、武井壮選手。彼もテレビなどでメダルを取ると宣言していた。
 【譜久里武対武井壮】。ありがたいことに地球の裏側で開催する世界マスターズ陸上ががぜん注目され、盛り上がっていった。
 そして本番。100メートル予選は1位通過したものの調子が悪く、準決勝はぎりぎり3位で何とか決勝に進出した。ついに念願の日本人対決が実現した。翌日の決勝を控えた夜、しばらくベットで考え込んでいた。
 「メダルに届かないかもしれない。負けるかも」。悶々(もんもん)としていると、全国の皆さんからたくさん頂いた応援メッセージの中の言葉でわれに返った。「自分の走りだけに集中しよう。譜久里武という存在は消えないのだから」。決勝当日、選手招集所でも全員が集中して緊張感が漂っている。
 40歳を超えてこんな経験ができるなんて。会場が盛り上がる中、100メートル決勝の号砲が鳴った。夢のステージを無我夢中で走った。1人で走っているような感覚。そのままゴールへ吸い寄せられた。結果は2位。銀メダルを獲得し、「やったー」。自然と涙があふれた。
 言葉の力で助けてもらった。恩返しできた充実感と感謝の念が湧いた。絶対に忘れてはいけないことだ。そして帰国1カ月後、アスリート工房を作った。あの日の感謝と恩返しを行う新たなステージとして。
(譜久里武、アスリート工房代表)