<南風>牛がくれた翼


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 授業料の納入が経済的に難しい学生は、新学期の開始とほぼ同時に奨学金に申し込む手続きを取る。

 琉大でも学生の経済状況を検討し、授業料の全額、あるいは半額を免除する大学の授業料免除制度のほか、最近は県内外のさまざまな団体から、成績優秀かつ経済的困難を伴う学生を対象に、返還義務のない奨学金の募集がある。大学生の貧困が問題になっている昨今、奨学金などの財政的援助の種類も増えたと思う。
 奨学金と聞くと思い出すのが、高名な哲学者で琉大名誉教授の米盛裕二先生が、ご生前、あるシンポジウムでなさったお話である。11年前の話なのでうろ覚えのところもあるが、確か石垣島出身の米盛先生が島外に進学することになった時、村が牛を一頭売って教育費を工面したとのことだった。
 先生はその後、米国オハイオ州立大学博士課程を修了し、ハーバード大学でも研究をされた。米盛先生いわく、その牛は後に「裕二を学者にした牛」として、村に肖像写真が掲げられたそうだ。牛に合掌。しかし牛以上に神々しいのは、若者に未来を託して大切な牛を手放した人々の思いと、その重みを胸に抱いて飛翔し続けた若者の姿だ。
 奨学金の機会が増えると、返還義務のない奨学金をまるで宝くじのようにみなす人もいる。しかし、奨学金はただのお金ではない。そこには若者に期待と夢を託す人々の切実な思いが込められている。
 沖縄が今ほどの贅沢(ぜいたく)を知らなかった昭和の時代、戦争で満足な教育を受けられなかった父母は、自分はボロを着ても子の教育には支出を惜しまず、親戚や祖父母は日々の質素な蓄えの中から「帳面代」を捻出してくれた。折しも清明祭の季節。わが身を削って子孫に命と翼をくれたウヤファーフジ(祖先)の大きさと豊かさにあらためて合掌、だ。
(喜納育江、琉球大学ジェンダー協働推進室長)