<南風>漢方から見た病因


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 現代医学は病気の原因を目に見えるものに求めた。技術の進歩に伴いより小さなものが見えるようになり、光学顕微鏡で細菌を見つけ、抗生物質やワクチンを開発し、さらに小さいウイルスを電子顕微鏡で見つけ、抗ウイルス剤を開発した。さらに遺伝子構造を解明し、遺伝子治療へ進んだ。病巣を除く外科手術も顕微鏡で極限まで発達した。

 漢方では病因を三つに整理している。一つは天の運行による昼夜・季節の変化に伴う気象条件、風寒燥湿熱の外因。その中で風寒による風邪を傷寒として取り上げた。風寒以外の原因による病気を後世の漢方医が研究し、治療の充実を図ってきた。
 二つ目は内因の七情、喜怒悲思憂驚恐である。失恋から自然の驚異、社会生活の困難はすべて七情の乱れを起こす。情動、すなわち激しい感情は自律神経やホルモンのバランス、免疫の働きに影響し未病となる。三つ目は不内外因つまり、内因でも外因でもない原因、食事、過労、外傷、毒虫などを挙げている。飲食物では腹を冷やすことの害、炭水化物の摂(と)り過ぎによるメタボリック症候群、過労や睡眠不足など、生活習慣の問題がこれに含まれる。
 漢方の病因による不調は、細菌のように具体的な原因として捉えにくく、現代医学では不定愁訴とされるが、漢方的に眺めると不定愁訴でなくなる。目に見える原因の治療に慣れてきた現代医学は直接死につながる病気に優先的に取り組み、救急医療充実の成果を上げた。ところが直接死の危険の差し迫らない、ストレスから起こる自律神経やホルモンのバランスの乱れによる不調は、従来のやり方ではうまくいかず、持て余しているように見える。
 すべての漢方的病因が複合的に作用する地震などの天変地異が、健康に及ぼす脅威の深刻さが、時節柄あらためて理解される。
(仲原靖夫、仲原漢方クリニック院長)