<南風>独りの少女と向き合って


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄の子どもを取り巻く環境は依然として厳しい。敗戦から日本復帰まで沖縄は米軍統治下に置かれ、子育て環境にも大きく影響が及んでいる。長い間、放置されてきた子どもたちの困窮に地域の大人たちが寄り添い、取り組みが行われていることを嬉(うれ)しく思う。

 15年前からずっと気になっている独りの少女がいる。育った家庭環境があまりにも複雑だったことを忘れることができない。
 母親は働き者で昼も夜も身を粉にして働いていた。父親は定職がなく賭け事が好きで、お酒を毎日飲んでいるとのことだった。母親の仕事が夜勤で自宅に帰れずに子どもだけで過ごすこともあったと言う。少女との出会いは、幼稚園児で学童クラブに入所してきたことがきっかけだった。少女は無邪気で明るく、成績も良く、賢い子であった。
 私が「ももやま子ども食堂」を始めるきっかけの一つでもある。少女は小学3年生まで学童で預かり、その後はクラブ活動に入るということで退所した。しかし、4年生から父親の暴力や暴言などの虐待が始まり、体中あざだらけだった。中学校に入るといじめに遭い、学校に行くことができなかったという。
 誰にも相談できずに家出をし、家にも学校にも居場所がなく深夜徘徊(はいかい)するようになった。最後は児童相談所のお世話になり、児童自立支援施設で生活指導などを要する生徒になってしまった。「なぜ、誰も気付かなかったのか」。彼女の話、胸が痛み、涙があふれた。
 「子どもは、さまざまな事情を背景にストレスや不安を言葉にして大人に伝えることができないため、注意深く見守り、子どもが発するSOSに気付いてあげることが大人の役割だ」と感じた今、彼女は夜の仕事から昼間の仕事に変わり、軌道修正を試みている。これからも彼女を見守り、支援を続けていきたい。
(比嘉道子、NPO法人ももやま子ども食堂前理事長)