<南風>立ち止まり、振り返る


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 日々さまざまなニュースに触れながら、自分の身の回りや社会を見回してみて、どこで何を掛け違えてしまったのか、と感じることが多い。人は時間とともに経験を重ね、学び、進化していくものだと思っていたが、角度を変えると状況はまるで違う。目の前の二者択一を選び、前だけを見て進んでいるうちに、かつては想像することもなかった時代、場所に立たされている、そんな気分だ。

 5月15日、浦添市のライブハウスで、リクオのライブを聴いた。ピアノマン・リクオとして全国津々浦々を歌い歩く彼は、1年で130本のライブをこなし、日本列島をほぼ2回りする。
 今回は、新しいアルバム「ハロー!」を携えての公演。ポップに彩られた作品の中で描かれるのは、普遍的な愛のあり方や、記憶の彼方(かなた)の風景、10代を遠く離れてしまった大人の現在地。そのどれもが51歳の一人の男の言葉としてリアルに綴(つづ)られる。旅をする視線からは、今の日本の風景も透けて見えてくる。
 “立ち止まれ 振り返れ 輝く未来のために 僕らの過去をたどってゆけば きっと答えが見つかるさ”。アルバム最後の曲「LOOK BACK!!」の一節だ。
 考えると、振り返らない、前のめりの歌ばかり聴いてきた。この曲を聴くと、立ち止まって、振り返ってみる大切さが切実に伝わってくる。過去の歴史や自らの足元を見つめ直す作業は、実はとてもポジティブなこと。何もかもが不確かな世界で、折り重なる過去に目を向けることが明日のヒントになる。なかなか学ばない私に、音楽は沢山(たくさん)のことを気づかせてくれる。
 打ち上げの席。「リクオさんの音楽は、もっと多くの人に知られるべきだ」。誰かが言う。圧倒的な音楽の力を味わった誰もが、その言葉に同意した。まさに、それは今の時代に響かせるべき音楽なのだ。
(野田隆司、桜坂劇場プロデューサー・ライター)