<南風>常識壊した世界一


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 2015年8月、僕らは世界マスターズ陸上の決戦の地、フランス、リヨンにいた。大会前日に全員が集まり、ライバルも次々と集結。優勝候補は100メートル、200メートルの世界チャンピオンがいるイギリス、前回王者で世界記録保持チームのアメリカ、そして地元フランスやトリニダード・トバゴなど、世界各国の強豪が世界一の称号を狙っていた。

 世界の短距離界は中南米やヨーロッパの選手がやはり強いと認識されている。当然、日本チームの前評判は低かった。これが世界の常識なら、僕らが壊す!そんな強い思いがあった。決勝は各国が2組に分かれてそのタイムを競う形のレースだ。当初、僕らは強豪国とは別の組に入っていたが、決勝当日、なぜか強豪国が集まっている強い組で一緒に走ることになった。
 最終日とあって競技場のスタンドは大観衆で埋まった。異様なムードに今まで経験したことのない緊張感に包まれた。バトンを落とせばすべてが一瞬で終わる。スタート直前、メンバー全員を集めた。そして一人一人、心境と思いを語った。
 1走の石黒文康選手は「絶対つないでくるから!」、私は「全員抜いてくる!」、渡辺潤一選手は「1位で渡すから!」、武井壮選手は「足がちぎれても1着でゴールする!」。みんなの言葉で熱くなった。そしてチームが一つになり、強い決意が生まれた。
 そして4×100メートルリレー決勝の号砲が鳴った。無我夢中で走った。みんなの思いをつないだそのバトンは、世界一にふさわしい結果を導いた。世界一!「やった~」。みんなで抱き合って泣いた! 日の丸を持ってのウイニングラン、表彰式の国歌斉唱! まさに素晴らしい仲間と共に常識を壊した最高の日になった。その夜、ワインを片手にみんなで乾杯した。それは次の夢に向けたスタートの号砲でもあった。
(譜久里武、アスリート工房代表)