<南風>真心で写す


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 たくさんのカメラマンがいる中、自分らしい特徴はあるのか? 作風以前に心掛けていることはある。

 それは、カメラを構えるよりも先に、家を出る前に行うささやかな儀式というか、心構えだ。静かに手を合わせ、これから向かう場所などに対して「よろしくお願いします」と気持ちを向けること。これを行うか行わないかで、物事がスムーズに進むことが多いから不思議だ。
 また、目的地に着いた時点で、現地での挨拶(あいさつ)も心掛けるようにしている。たとえ、対象者が人物ではなく、自然が相手だったとしてもだ。
 それは誰かにアドバイスを受けたわけでなく、自分の経験から自発的に行っていることだ。もちろん、そのキッカケはあった。
 ある年、小浜島でリフォームしたばかりの民宿を撮影する機会をいただき、それが偶然にも島の結願祭の日と重なった。「島からの招待状ではないか?」と思えたほどのタイミングだったので、港に到着早々に、宿のスタッフの方に、島の象徴である大岳(うふだき)を案内してもらい、ご挨拶をさせていただいた。さらに偶然は重なり、その日は女将(おかみ)さんの誕生日でもあった。晩に宴が行われ、スタッフさんたちが覚えたての楽器を一生懸命奏でながら、心を込めてお祝いをしていた姿に感動した。感謝とは形式ではなく、心、真心が何よりも大事ということをあらためて知った。
 その後、“真心を込める”を心掛けて実践するようになると、いくつかの奇跡が呼び起こった。
 写真で難しいことのひとつは、決定的瞬間を捉えること。だが心掛けのおかげか、風景の中に奇跡的なフレームインが重なったり、自然との同調したかのような絶景の瞬間に出会うことが増えていった。写真は、心で写す“写心”といえるかもしれない。
(桑村ヒロシ、写真家)