<南風>高齢化社会と漢方


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 漢方では老化現象のことを腎虚という。人が生まれ、成長し、子孫を残し、老いて死んでいく過程をコントロールする性ホルモンの作用を漢方では腎の働きとし、成熟していく過程は腎盛、老化は腎虚と表現する。年を取ると性ホルモンが低下し、体の保水力が減るため水分の割合が減り、いわば枯れていく。体の水分量が減ることで体温の調整が微妙に変化し、水不足の微妙な症状が現れる。

 具体的には水の排泄(はいせつ)による体温調節が鈍り、汗をかきにくくなり、夏は体温が上がりやすく熱中症になりやすい。逆に冬は冷えやすく寒さに弱くなる。皮膚は乾燥し、湿度の低い冬に痒(かゆ)くなりやすい。また手足や体が火照り、唾液が少なく口は乾きドライマウス、涙も少なく目が乾いてドライアイになる。視力や聴力も衰え、精力や脚力も弱くなる。便は硬くコロコロ便の便秘症になる。

 乾いた空気により空咳(からぜき)が出やすく、めぐる血の量も少なくなり動悸(どうき)が起き、イライラしやすく、睡眠は浅く、早く目が覚める。また関節も曲げにくく硬くなり、筋力は年々衰えてくる。このような症状に対して現代医学はなすすべがないように見える。

 ところが漢方では体の水分量が少なくなる一連の病態に対し、保水力を高め全身の組織に水を行き渡らせる作用をもつ生薬を組み合せ、加齢変化のさまざまな症状に対応する処方を工夫している。漢方には老化による症状を考慮した処方が少なくない。その中で最も有名な八味地黄丸(はちみじおうがん)がある。足腰が衰えて冷え、尿が近く、勢いも弱く、耳鳴りがして聴力も落ちる人に使う。

 高齢化社会でアンチエイジングに対する関心の大きさに戸惑いながらも、外来では「中古車が新車に戻る道理はありませんが、こまめな修理と手入れで長持ちさせましょう」と強調することにしている。
(仲原靖夫、仲原漢方クリニック院長)