<南風>星のタトゥー


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 先月末、火星が2年2カ月ぶりに地球に大接近しました。南東の空には火星とさそり座の一等星アンタレスが明るく輝き、近くの土星も華を添えて、それはにぎやかな夜空でした。

 11月生まれの私は何を隠そう、さそり座の女です。英語だと占星術(アストロロジー)は天文学(アストロノミー)と単語が似ているせいか、私は星占い師だと勘違いされることがあります。星や銀河の未来は紐解(ひもと)けても、人の一生はなかなか予測できないものです。
 私の足には実は大きな傷跡があります。あと1センチ傷が深かったら切断、という大けがを小学生の頃体験しました。「足一本もうかったね」とは、6時間の大手術を終えた主治医が私にかけた言葉です。それまで内気で一人で外出もできず、家で静かに本を読んでいるのが常だった私は、意外なことにこのけががきっかけで積極的になりました。
 1カ月入院し、学校へ戻ると、算数の授業でみんな割り算をしています。掛け算ですら苦戦していた私です。白紙のテスト用紙を家に持ち帰り、その日から母と二人三脚での自宅学習を始めました。そのおかげで1カ月後のテストでは、クラストップの成績。担任の先生にクラス全員の前で褒められ、それがきっかけで勉強が好きになりました。
 人生は何がきっかけで方向転換するか、分からないものです。大けがを体験した私は生まれて初めて人前で褒められた、というのがきっかけでした。先日、私の傷跡を見た同僚の天文学者に言われました。「あなたの傷跡ってクールね。まるでさそり座のタトゥーみたい。誇りに思うべきよ」
 大けがはこりごりですが、これからも様々(さまざま)なことに挑みたいと思います。半年間、南風を通して沖縄の皆さんにハワイから天文学をお伝えすることができ、とても幸せでした。また会う日まで。ア・フイ・ホウ!
(嘉数悠子、国立天文台ハワイ観測所アウトリーチ・スペシャリスト)