<南風>君知るや名肴ゲテモノ


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 肩書きの委員会(12人)が6月上旬、東京で開催された。前日本大学総長の酒井健夫氏が委員長で、ちなみに筆者は九州ブロックの代表委員を務めている。

 折角なので前泊して、独自のテーマを設定し、スタディを開始した。題して「野生鳥獣肉の安全性確保に関する研究」である。なお、本研究は日本獣医師会への政治資金は転用されておらず、すべてが私財を投じての「うぁーばぐとぅ」であることを申し添えておく。

 初日は神田の「罠(わな)」に捕らえられた。店のコンセプトは“北海道から九州まで、猟師の仕留めたジビエ肉を炭火でシンプルに食らふ”である。平成23(2011)年度自然環境保全基礎調査によると、イノシシの生息推計値は約88万頭、エゾシカは約64万頭となっている。そこで鳥獣被害で深刻を極める両者をまず「天然猪(大分産)三点盛りセット」を七輪でモウモウと網焼きにし、蝦夷鹿(えぞしか)のユッケを堪能しながら合掌を唱(とな)え、雉(きじ)出汁卵、鶉(うずら)半身焼きをパクチーとワケギのサラダをはし休めに次々と仕留めた。

 樋熊(ひぐま)と月ノ輪熊は無念にも在庫切れとのこと。厠(かわや)に行くと、ドアに「熊出没注意!」の掲示板があり、山親父との遭遇を誓った。

 2日目は新宿西口の思い出横町にある「朝起(あさだち)」。珍品・スタミナ料理で有名なこの店は、スモーレスラー御法度(ごはっと)の激セマ繁盛店である。カウンター奥に身を沈めて上を見上げるとスッポンの残骸が風鈴さながら何体も吊してある。

 ここで「甲羅骨、下手物(げてもの)どもが夢の跡」と一句呻吟(しんぎん)し、スターターのハブ酒に口を付けた。オオサンショウウオをお通しに、かえる足塩焼き、豚の金玉さしみ、子宮のユッケ、スッポンの心臓に舌鼓を打つうちにいつしか羽化登仙の境に入った。

 ところで、2日間の彷徨の効能は如何ばかりか? とお訊ねの貴兄。あーぁ、いよいよ紙幅が尽きました。
(又吉正直、日本獣医師会 学術・教育・研究委員会委員)