<南風>地域の誇りに触れる


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 「3、4軒に1軒が豆腐を造っていた」。那覇市繁多川での話だが、上間・識名・真地も同じように豆腐処(どころ)だ。なめらかなのに型崩れしない、そんなこの辺りの豆腐が好きだ。

 8年ほど前から私が勤めている繁多川公民館(指定管理者・NPO法人1万人井戸端会議)は、自治会や学校をサポートする方々と共に、小学校の授業で大豆栽培から豆腐作りまで行っている。授業を通して触れてほしいのは、先輩方の地域への誇りだ。
 沖縄全域で豆腐は年中行事に欠かせないものだが、この地域の方々にとって豆腐の存在はひときわ大きい。特に沖縄戦後、収容所から故郷に戻って暮らしを始めようとした時、多くのお父さん、お兄さん、お姉さんらが戦争で亡くなり、働き手が少なくなっていたので、祖母や母が豆腐を作って物々交換をしたり、現金に換えたりして子どもたちを食べさせてきた。
 その時の子どもたちや後に嫁いできた方々が、学校の授業をサポートしている。繁多川にお嫁に来た方が「豆腐作りができないとお嫁にいけなかった。必死で習った」という話をすると子どもたちも驚く。地域の子どもたちは、復興を担った豆腐の話から自分と他者、自分と地域のルーツがつながっていく気がする。
 時代を切り開くこれからの子どもたちに、地域ができることは、そういう自分の“おかげさま”と、自分を育んだ地の“おかげさま”を見つめ、力に換えてあげることだと思う。
 先述の女性が豆腐作りの翌日、公民館窓口で僕らに声を掛け、「来年も子どもたちと豆腐作りできるように、体操してこよーね」と週1回の健康体操サークルに向かった。豊かさとは何かと聞かれたら、私はきっとこういうことだという。何ものにも代え難い暮らしの中に、仲間がいて未来につながる学びがある。
(南信乃介、NPO法人1万人井戸端会議代表理事)