<南風>未完成だからこそ


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 先月、研修で山形県川西町へ行ってきた。見渡す限りの田んぼや山々に圧倒された。民泊では特産品のさくらんぼや山菜料理をいただき、感激した。特に笹(ささ)の葉にもち米を包んだ笹餅は地元の人との思い出と共に忘れられない味となった。

 この地域では、地域住民が総力を挙げてまちづくりを行っている。「地域経営」の視点で、学童や地元のブランド向上、高齢者の宅配サービスなど幅広い事業で雇用と運営費を生み出している。私が驚いたのは5年ごとの地域計画を住民が作り、それが町の総合計画とリンクしていることだ。
 日本は世界で少子高齢化のトップを走る。働く人が減り、公共で担ってきたことが担えない昨今、住民の力がますます不可欠だ。那覇市も例外ではない。地域を支えてきた自治会の衰退や、担い手の高齢化が課題だ。誰がどうすれば暮らしを改善できるのか。そのヒントを研修で得ることができた。
 山形県では、町の危機を町長をはじめ、地域住民まで認識したところから始まっている。「未完成」だからこそ人は力を合わせるのだと思う。
 私は社会人になる時、「社会は完成されている」と思っていた。頭のいい人は世の中にあふれ、自分にできることなんて分からない。しかし、現実は先人の方々がより良く生きようとした歴史の上に、今の社会があり大事なところは継承しつつ、足りないところや変わっていかなくてはならないことばかりだ。
 職場体験に来ていた中学生に10年先に大切にしてほしいことを聞いてみた。「安心して毎日すごせること」「自然環境」「生活の保障」―。将来そして今の不安を打ち明ける。彼らが望んだのは、ありふれた日々だった。そうだ。将来への課題と向き合うことは、ありふれた日々を守ることに結び付く。
(南信乃介、NPO法人1万人井戸端会議代表理事)