<南風>約束の子


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 十数年前の話です。
 本土で生活する県出身の「元ハンセン病患者」が一時帰省したので、一緒に夕食を共にしたときのことでした。

 当時の私は愛楽園に住む「元ハンセン病患者」の方々から話を聞き、文章化する仕事を始めたばかりで、ほとんど何も分からないまま、何だか後ろめたい気持ちで愛楽園での夕食会に出ていました。
 鹿児島から数人の方の帰省です。うちなー料理と泡盛で持てなす会は決して豪華ではありませんが、温かさにあふれていました。
 三線の演奏で歌い踊る姿には、故郷を追われた悲壮感などみじんもありません。「踊りすぎて尿漏れしちゃったよ」などと言い、笑いが起こります。
 新参者の私がいることに嫌悪感を抱くのではないか、と思っていたのですが、そんなこともなく、何だかホッとしていると、あるおじいちゃんが私に言いました。
 「あなたは3人の子を産みなさいね。一人は貴女の子。一人は旦那さんの子。もう一人は私たちの子だよ」
 「私たちの子」。それは「ハンセン病患者の産めなかった子」を意味しています。ハンセン病患者は断種手術や強制堕胎によって子供を奪われてきました。そんな非人道的な政策の中で生きてきた人が発する言葉です。
 私は涙があふれてしまい、うなずきながら「初対面の私に、どうしてそんな優しいことが言えるの」と尋ねました。「思ったことを言っただけだ」。おじいちゃんは、そう言って笑いました。
 「過ちを生かす未来をつくりなさい」。そう言われた気がしました。
 あれから10年以上の月日がたちます。ずいぶんお待たせしましたが、あの日、約束した「私たちの子」が10月に生まれる予定です。
(宜寿次政江、HIV人権ネットワーク沖縄副理事長)