<南風>窮鼠猫を噛む


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 あれは小学校2年生の休み時間でした。突然、一人の男子が机に嘔吐(おうと)したのです。
 「大丈夫?」などと大人の対応ができる人格者がいるわけもなく、「うえー、きたねー」とはやし立て、大盛り上がり。吐いた子は一人、汚れた机を見つめてうつむいていました。

 いま振り返ると走って行って抱き締めてあげたい姿なのですが、当時の私は下衆の極み乙女。みんなと一緒になって大騒ぎ。ほんと、走って行ってたたいてやりたい。
 すると突然、吐いた子が「うおー」と奇声をあげ、机の上の嘔吐物をみんなに投げ始めたのです。初めてのテロ体験。ゲロパニック・イン・2年1組。
 先生が駆け付けた時には、お気に入りの服を汚された女子は泣き叫び、ゲロで滑った男子は情けない姿を披露していました。
 その奇怪な状況に先生が事の次第を問うても、静まり返った教室には嘔吐した男子の泣き声だけが響きました。
 そのころには皆、彼の痛みを共有し、愚かな行為だったと気付いていました。もちろん私もその一人でした。
 窮鼠(きゅうそ)猫を噛(か)む。
 このことわざを知ったのはだいぶ後ですが、大きな力で人を追い詰めてはいけないということは、あのゲロテロで体感しました。
 そして今、よせばいいのに大きな力を持った愚かな猫が、命懸けのネズミと対峙(たいじ)しています。ああ、日本政府にゲロを投げ付けたいこの衝動。
 民主主義国家の権力者だという自覚と誇りを捨てた恥ずかしい政治家を見ていると、ほんと、走って行ってたたいてやりたい。
 何はともあれ、猫さまにおかれましては、ゲロパニック・イン・国会議事堂。なんてことにならないよう、十分ご注意くださいませ。
(宜寿次政江、HIV人権ネットワーク沖縄副理事長)