<南風>他者との距離


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 人には誰でも、他人に入り込んでほしくないテリトリーがある。それは物理的な相手との距離であったり、物事に対する価値観であったりする。どちらも人が安心して過ごすために必要な、他者との距離だ。その距離の取り方は一定ではない。人によって違う。しかし、それを知らずに自分と同じ感覚で接してしまい、相手に不快な思いをさせてしまうことがある。

 初対面の人同士が集まる場面は、相手がどんな人物か分からないため、不安を感じやすい。軽くあいさつを交わした後は、互いに空気を読み合ったり、様子を探り合ったりして、すぐに話は弾まない。そのうち、黙っていることに居心地の悪さを感じ始めて、周りに声を掛ける人が出てくる。

 例えば、「今日は少し肌寒いですね」「どちらからですか」と。その言葉をきっかけに、緊張で張り詰めた場の空気が一気に緩み、雑談が交わされるようになる。いつしか話が盛り上がり、プライベートな話題になっていく。そんな中、自分のことを話さない人がいることに気付いたある人が「あなた、お子さんは?」と聞いた。相手は少し困ったような笑みを浮かべて、「いえ、いません」と手を横に振る。

 相手がそれ以上、話題を発展させる気配がない場合、そこで止めておくべきだが、たたみ掛けるように、「結婚は?」と聞いた。相手は「いいえ」と答えて、それっきり黙ってしまった。

 仲間に入れない人を何とかしようという親切心から取った行動だと思うが、相手にとってはテリトリーへの侵入であったようだ。

 自らプライベートな話をする人はともかく、こちらからプライベートな質問はしない方がいい場合もある。積極的に人と関わろうとする姿勢は良いが、相手のテリトリーに入り込まないよう十分気を付けたい。

(吉田文子、コミュニケーションカウンセラー)