<南風>三水会のドン


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「天賞も 喜び半ば 首領不在」(呑雲)

 私には川柳の仲間がいる。毎月第3水曜日をその日と決めているので三水会。十人の会員が雅号に呑(どん)と付けた「呑ファミリー」である。「呑海」の雅号を持つ花崎為継氏がわがファミリーの首領(どん)である。先の句の首領とはまさしく彼のことなのだが、「呑雲」こと稲福日出夫氏がなぜあの句を作ったのか、首領不在とはどういうことなのか? 実は2年程前大変なことが起こった。首領が大けがをしたのである。

 頸椎(けいつい)骨折、頸椎脱臼、その一報を聞いた時の衝撃は今も忘れない。

 北中城の花崎家では、毎年6月某日、庭のレイシの実の熟(う)れる頃にレイシパーテイ―なる楽しいおいしい宴が催される。氏はその準備で友人たちに手伝ってもらいながら、庭の木の枝切りをしていた時、誤って転んでしまった。一回転して起き上がったのだが、首に異変を感じ病院に駆け込んだ。診断結果は即入院、絶対安静だった。身体は大変なことになっていた。首領が不在になった。

 不在は三水会だけでなくこの世にも不在になるつもりなのかと動悸した。入院3カ月、私たちの祈りが届いた。氏はしたたかに奇跡を起こしてくれた。回復したのである。車いすにもならず自分の足で立ち、快気祝いを兼ねた時期をずらしたレイシパーテイ―と三水会が行われた。そのうれしさが冒頭の稲福氏の句になった。

 長期入院の名残は仙人のように伸びた白いひげとスリムになった体形だった。そのドンが回りの心からの心配をよそに得意の川柳を詠み遊ばした。「見舞客 貴女(あなた)以外は 皆その他」

 心配して涙を堪えて氏を見舞った女性客へおめでたいお返しをしてくれた。現在、われらがドンは沖縄県川柳協会の会長として皆を引っ張ってくれている。
(國吉安子 陶芸家、「陶庵」代表)