<南風>海があればどうにかなる


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 「ざっくざっく」

 浜辺の砂を熊手で掘り起こすと、シューッと潮を吹き、あさりが顔を出す。私の唯一の趣味は、潮干狩りだ。サンゴ礁に囲まれた浅瀬・イノーで貝を探す潮干狩りは、まるで宝探し。

 子どもの頃、カレンダーで干潮の日をチェックしては、海に連れて行ってほしいと母にせがんだ。私が潮干狩りを好きになったのは、その母の影響が大きい。

 母は、私が4歳の時に、価値観の違いから父との離婚を決意。当時、母には安定した収入もなく、私と姉の2人を抱え、将来に対する不安は大きかっただろう。しかし、母は楽観的で、その口癖は「海があればどうにかなる」だった。豊かな食糧を育んでくれる“食べられる自然”がそこにあれば生きていけるということを海辺のまちで育った母は知っていた。家族3人でバケツいっぱいの貝が穫(と)れると、確かに、これで大丈夫と心を強く持てた。

 お金がかからない上、夕飯のおかずを得られる潮干狩りは、わが家にとって最高のレジャーだった。

 沖縄テレビで36年間続く「河川・環境シリーズ」を立ち上げた寺田麗子さんは言う。「単に良い環境にしましょう、ではなく、命をつないでいくための命綱としての自然を、私たちは真剣に復元していかなければならない」と。

 幼い頃、遊び場だった本島南部の浜は大部分が埋め立てられ、貝はいなくなってしまった。今は、より遠くまで足を延ばしている。

 自分が母になって思うのは、自然という命綱を子どもたちにつないでいかなければならないということ。人間はもろい生き物だ。だから自然に生かされていることを知り、自然から恵みを得て生きていけることを知ることが、この社会を生き抜く力になると思うのだ。

 どうか、これ以上、食べられる自然を壊さないでほしいと切に願う。
(平良いずみ、沖縄テレビアナウンサー)