<南風>松の話


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 4月22日付琉球新報18面に「宜野湾街道のマツ」と題する古い写真が掲載されていたので、松の話を一席。当方は名護出身なので南部一帯に自生の松がないのが不思議だったが、程なく大戦が原因だったことが分かった。日本軍が松を伐採して槍(やり)や松根油などにしたのだ。運よく生き残った松も爆撃で消滅した訳だ。

 現在では今帰仁の蔡温松が有名だが、宜野湾街道の写真も三司官・蔡温が植林したものだ。これは防風・防潮林として全琉に植林されたもので、首里に上る坂道もさぞかし松並木が美しかったろう。

 ところで、松は天然の樹脂を分泌する。いわゆる松ヤニと称するもので、成分はテレビン油とロジンなので、勢いよく燃える。松の老木枝は松ヤニが含まれているので、少々の風が吹いても消えない。山原の方言で「トゥブシ」と言ったが、これは「灯り」のことだ。おそらく大陸の冊封使を乗せた船が那覇港に近づいたのを知らせるノロシもトゥブシを使ったことだろう。

 唐突だが、マツボックリはパイナップルに形状が極めて似ている。パインは英語で松なので、松の実(ボックリ)を参考にパイナップルと命名されたのだろう。

 クロマツとアカマツの中間種であるリュウキュウマツは県木でもある。1966年12月20日の森林審議会で県木にすべく討議された。他の候補木はガジュマル、フクギ、アカギ、テリハボクの各氏である。

 もちろん県木であるから、琉球特有にして全琉に分布し、存在が県民にあまねく知られていて観光・経済面での有用性も求められたが、結論がでなかった。結局、琉球新報社が呼び掛けた県民投票を参考に、リュウキュウマツはめでたく県木に選出されたそうだ(次点はガジュマル)。

 それにしても、近年の松くい虫による被害は戦禍のそれを上回り痛々しい。
(渡具知辰彦、県交通安全協会連合会専務理事)