<南風>呉屋創業者を偲ぶ


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 7月4日、金秀グループの呉屋秀信創業者の訃報に接し、巨星墜(お)つとは、まさにこういうことなのだと、初めて知った。呉屋創業者は、お通夜の日も穏やかな表情を浮かべられ「やるべきことはすべて成し遂げた、思い残すことは何もない」と、語っているように思えた。グループ創業70周年の節目を見届けられ、なおかつ祝賀会では、独特のユーモアで笑いを誘い、見事な1分間スピーチで降壇された。誠に爽やかな印象を残されたまま、天国へと旅立たれたのである。「人間、何より引き際が大切だ。惜しまれて去って行くのが、花というものだよ」。生前、おっしゃっていた通り、最後の最後まで範を示された。

 顧みるに、私は長年創業者から薫陶を受ける機会に恵まれたが、その間、実に多くの黄金言葉(くがにくとぅば)を頂いた。今となっては、それは私の指針であり、貴重なものさしとなっている。琉歌にのめり込むきっかけも、創業者の一言だった。「ウチナンチュの素晴らしさは、琉歌集をひもとけばわかる。あんたもぜひ、読んでみなさい」。その御言葉通り、そこにはウチナンチュの矜持(きょうじ)がしっかりと刻み込まれていた。

 当協会の会長時には、「行動する経営者協会」をスローガンに掲げられ、協会発展の礎を築かれるとともに、本県の経済振興と経営人材の育成に多大な貢献をされた。すべて「隗(かい)より始めよ」で、即断即決・率先垂範された。決断をされる際に、迷われることはないのかお尋ねすると、「その時は私心を捨て、道理に適(かな)っている方を選択すると、大抵間違いないものだよ」と、お答えになった。潔いお方だった。出来得るならば、あの滋味に富んだ天下一品のスピーチを、今一度拝聴したいと切に思っていたが、それは叶わぬこととなった。これまでの御恩に深謝し、御冥福をお祈り致します。
(山城勝、県経営者協会常務理事)