<南風>今は昔「象牙の塔」


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 ひょんなことから「南風」を担当することになった。琉大の特色ある教育研究や社会貢献活動、学生の活躍や教職員の様子などを紹介していきたい。読者の方々に琉大を身近に感じていただき、大学の価値や大学で学ぶ意義を考える契機としていただければ幸いである。

 数日前に大学入試センター試験が終わった。強張(こわば)っていた琉大教職員の身体もようやく少し緩む。十数年前、私も息子たちの受験では胃の痛くなるような思いを経験した。どうか受験生と保護者の方々の緊張が少しでも和らいで、遅まきながらも初春の穏やかさを実感されていますように。

 琉大の年始恒例行事の一つ、学長の年頭挨拶(あいさつ)が4日に大学会館で行われた。役員、各学部長や研究科長、事務の部課長や職員が一堂に会し、20分余り静かに耳を傾け、皆それぞれの持ち場へ戻っていく。正月らしさが薄れた昨今でも、先生方や同僚たちの神妙な横顔を見る度、一種の高揚感と新たな期待感を覚える。

 今年の年頭挨拶では、時代の大きな流れを捉えて大学活動を展開していく必要性を痛感させられた。AI(人工知能)やロボットが急速に進展して2030年には多くの仕事がなくなる!?といった悲観的観測が先行する。果たしてそうだろうか。ICTが発達した知識基盤社会の今、アイディアや成果をオープンに共有し、人々の協働によってそれらを集合化して新たな叡智(えいち)に変えていくスピードも飛躍的に上がっている。有史以来、人々は知恵と協働で社会変革を起こしてきた。

 大学は既に象牙の塔ではなく、叡智が集合した学術研究基盤として、それぞれの地域の人々と協働して活動する時代に入った。琉大もその道を歩み始めた。いや、琉大の歴史から見れば、その道に戻ったと言うべきだろう。これから、私の目に映る琉大の今と昔の姿を伝えたい。
(新田早苗、琉球大学総合企画戦略部長)