コラム「南風」 ちはやふる


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 「ちはやふる 神代も聞かず龍田川 からくれないに 水くくるとは」
 これは百人一首の中に出てくる短歌の一つで、平安時代きっての色男と言われた在原業平(ありわらのなりひら)によって詠(うた)われたものである。古典落語「ちはやふる」という噺(はなし)の中でこの短歌が使われていて、一緒に番組のMCを務める落語家・北山亭メンソーレさんが先日披露してくれた。

 落語の内容は、主人公の八五郎が娘に百人一首の短歌の意味を聞かれたが、答えられなかったため隠居に尋ねたところから始まる。実はこの隠居も歌の意味を知らないのだが、威厳を守るため知ったかぶりをして、でたらめな即興を教えてしまうのだ。
 この噺をきっかけに私は百人一首の短歌「ちはやふる」の本来の意味に興味を持ち始めた。「ちはやふる」の歌は恋歌として捉えることができ、“龍田川を流れる唐色のもみじが水をくくっても色あせないように、あなたへの想いも色あせることはありません”作者の在原業平が身分の高い女性への許されない恋心を詠んだとされている。
 百人一首の短歌は、5・7・5・7・7という限られた文字数で想(おも)いをつづり、それが千年たった今でも多くの人を魅了している。それは溢(あふ)れる想いを歌のルールに基づき表現しているからこそだと思う。そして和歌を学んでいく中で、自分の仕事が短歌と共通していることに気が付いた。それがニュースだ。取材を通してたくさん集められた素材の中から、大事な言葉だけを紡ぎ合わせ、限られた枚数とリズムを整えて、リスナーの心に伝わるように努めている。
 平安の美男歌人・在原業平。平成の平凡女子アナ・伊波紗友里。在原と違って千年後の私の存在など忘れられるだろう。だけど今私の声を聴いてくれているリスナーの心に残る言葉をしっかり伝えていきたい。
(伊波紗友里(いはさゆり)、ラジオ沖縄アナウンサー兼記者)