コラム「南風」 ノーキャンペーン実施中


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 長いこと、ノーと言えない性質であった。なにごとも断ることができなかった。損をしないように、痛い思いをしないように。そして何より、人に嫌われるのが怖かった。
 安請け合いをして質の低い仕事ぶりになってしまったり、気が乗らないまま引き受けて、ストレスで苦しむなど、ノーと言えない性質はなんとも悲惨であった。しかも、人に嫌われたくないと思って一生懸命にイエスと言い続けても、しわ寄せは自分に来ることがほとんどで結局は孤独である。時間的にも精神的にも、本当にストレスまみれの生活だったように思う。

 これでは生きていけない。なんとかしたいと思いつつも、何かを頼まれるとついイエスと言う癖が染み付いてしまっていた。ほとんど反射的である。そこで三十になった日に一念発起。ノーキャンペーンと称して、無理な仕事は断ろうと決意。ちょうど一年になる。
 まず時間的に無理をする仕事にノーと言うことから始めた。うまくいったので次は、精神的に無理をする仕事にノーと言ってみた。これが効果絶大だった。多少恨み言を言われたりもするが、無理に引き受けてストレスにまみれても、その人が何とかしてくれるわけではないのだ。時間には限りがある。自分のことだけ考えるのは殺伐とした人生になろうが、人の事ばかりを考えてもまた、自分を大切にできず苦しいものである。それなら、少しは自分を労(いた)わりながら生きていっても良いだろう。誰のものでもない、自分の人生である。
 はじめは心が痛んだ。しかし、断ることを覚えてから、時間と心に余裕ができて不思議と支えてくれる仲間も増えてきた。というよりも、人のあたたかい気持ちを感じ取る余裕ができたのである。人生は好転した。そんなわけで、今のところノーキャンペーンには終了の予定がない。
(伊良波(いらは)さゆき、役者)