コラム「南風」 運動会


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 ある年の運動会。年長組にとても足の遅いA子がいた。A子がいるチームは、リレーの時は必ず負けた。負けず嫌いの5歳児たち、そのたびに悔しくてたまらない。(A子がいなければ…)。誰もが一度はそんなことを考えたかもしれない。

 ある日、「園長先生、F男が『オレ、A子のチームに入る』と言うんですよ」と担任が報告にきた。(あのわんぱくのF男が? あえて負けチームに?)。私は一瞬耳を疑った。が、その理由を聞いてまさに目から鱗(うろこ)だと思った。F男はこう言ったのである。「オレ走るの速いからA子のチームに入ってA子の分まで速く走る」。それまでウーマクぶりが目立っていたF男がなんと凛々(りり)しく見えたことか。彼は有言実行。見事な走りを見せてくれた。
 今年の運動会も盛り上がった。あおぞら保育園対あおぞら第2保育園の年長リレー。「あおぞら」には発達のゆっくりなKがいる。彼の走る距離は短くしてある。が、日によってスピードが違い、勝負が読めない。本番当日、誘導ミスでいつもより大回りをさせてしまった。その差はトラック1周半。(こんなに離されたら無理かも)。ふと弱気になる。が、子どもたちは決して諦めなかった。一人一人が彼の分まで速く走ろうと懸命に走った。少しずつ差が縮まってくる。その時、相手チームがバトンを落とした。会場にどよめきが起きる。すかさずアンカーがラストスパートをかけて一気に追い抜く。そしてとうとう逆転大勝利。
 あんなに離されていたのに…。感動の展開だった。
 聞けば子どもたちは「どんなに負けても途中で投げ出さない」「最後まで全力で走りきる」を合言葉に、バトンタッチも自主的に練習していたという。
 子どもは大人の固定観念をいとも軽々と飛び越え、より高みを目指す。子どもの可能性は真に限りがない。
(仲原りつ子、あおぞら保育園理事長・園長)