コラム「南風」 ヤギを飼う


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 年長になるとヤギの飼育活動が始まる。子どもたちは毎日一輪車を押して近くの草原に出掛け、5歳とは思えない手つきで鎌を持ち草を刈る。時には芋の蔓(かずら)やサトウキビの差し入れもあり、ヤギは地域のマスコットにもなっている。

 飼育活動のハイライトは子ヤギの誕生だ。園児たちが固唾(かたず)をのんで遠巻きに見守る中、ゆるゆると時が流れ、やがて無事に子ヤギが生まれてくる。子どもたちの瞳がパッと輝き、何とも言えない感動が湧き起こる。その子ヤギが立ち上がり歩き始めるまで30分。そのしぐさの愛らしさにまたまた歓声が上がる。
 ある年、2匹生まれたうちの1匹がとてもひ弱だった。すると母ヤギは元気な方にだけ乳を吸わせ全身をなめて可愛いがるが、ひ弱な方は見向きもしない。そこで哺乳瓶でお乳を飲ませることにした。初乳を飲ませないと糞(ふん)づまりを起こして死んでしまうと農家の方が教えてくれたので、慌てて初乳をコップに絞り入れた。黄色みを帯びねっとりしていた。それを子ヤギの口をあけ頬の内側に塗りつけた。が、やはり糞づまりは起こり、コロコロうんちを掻(か)き出したり、母ヤギに代わってなでてあげたりして育てた。初乳やスキンシップは人間にとっても大事だが、動物にとってのそれは命に関わるほど大事なことなのだと身に染みて知った。そしてひ弱では生き残れないという野生動物の生存競争の厳しさも…。
 子どもは鳴き声を聞いただけで「もうすぐ赤ちゃんが生まれるはずよ。いつもと鳴き声が違う」といち早く気付く。無心に乳を吸う子ヤギを見て「よし、明日からもっとたくさん草を刈って来るぞ!」とつぶやく。
 子ヤギに名前をつけ、優しく抱きあげたり頬ずりをしたり…。子どもにとってヤギは大切な仲間。そしてヤギを飼うことは命をいとおしむこと。
(仲原りつ子、あおぞら保育園理事長・園長)